タージマハルでモンゴルうどん

その日はインドに来て6日目。デリーの友達の友達の家を暗いうちに出発し、アグラにやってきた。目的は、ムガル帝国の5代目皇帝シャージャハーンが最愛の女性のために作ったお墓「タージマハル」を見物するためである。ギリギリになって予約した電車は安い座席が空いておらず、ちょっと良い席だったためか、6時半にビスケットと紅茶が、それが軽い朝食かと思いきや1時間後の7時半にはスパイシーなコロッケとトーストまで配られた。お腹いっぱい気味で電車を降りて、真っ先にタージマハルへ向かう。

タージマハルは一部工事中だったが、気分はラッキー。何故なら竹で組まれた美しい工事用の足場をみることができたから。

その日、街はちょうど頭が象の神様、ガネーシャのお祭り。昼頃になると、陽気な音楽と共に山車と踊る人々がアグラの街中に溢れ始めた。踊りは後で参加するとして、まずは、腹ごしらえ。「地球の歩き方」に「モンゴルうどん」が食べられると紹介されていた食堂へ行ってみることにした。

小さな広場に面した建物のテラス部分にその店はあった。細い階段を登ると、小学校高学年くらいだろうか、少年が席に案内してくれる。テラスからは、広場の小さな移動遊園地で遊ぶ子供たちや、時たま通る山車がよく見える。

少年が注文を取りにやってくる。メニューを指差して「この、モンゴルうどんをお願いします」。少年は「ちょっとお待ちください」と言って階段を降りていく。するとすぐにおじさんと2人で戻ってきて、おじさんが私に説明する。「モンゴルうどんは、おすすめじゃ無いです。他のメニューの方が美味しいです」。

「おすすめはどれですか?」と聞いてみる。答えは「モンゴルうどん以外なら全部おすすめ」と言う。

「モンゴルうどんできない訳じゃないんですね?」と確認すると、「できますよ」と。

へそまがりな私は、そこまで言われると益々この唯一すすめられないうどんに興味を持ってしまう。「では、やっぱり予定通りモンゴルうどんをお願いします。」

おじさんと小学生は何やら顔を見合わせながら階段を降りていく。

10分。うどんの気配はまだ無い。

20分。そよ風がテラスを吹き抜ける。うどんの匂いはしない。

段々と、「もしかして材料が無くて少年が大急ぎで買いに行っているのかも」「それともすごく手のこんだ打ち立てのうどんが出てくるのかしら」「うどんの秘伝レシピを唯一引き継がれたコックが今日は休みだったので電話して来てくれないか交渉しているとか」。想像が膨らむ。

30分、40分くらい待っただろうか。少年が階段を登る音がする。手には、小さな銀色のボール。テーブルに置かれたお待ちかねのモンゴルうどん。人参と玉ねぎと四角い麺だけが入った、茶色がかった透明のスープ。

優しそう、美味しそう。これだけ待ったので、お腹はぺこぺこである。

満を侍して登場したモンゴルうどん。スプーンでまずはスープを一口。首を傾げてから、フォークで麺を一口。

…。「まずい」というような決定的な言葉を使うほどは不味く無いのだが、全然美味しくない。麺は、フォークで引っ張ると最も簡単にプンと切れる。玉ねぎと人参は生に近く、スープはぬるめのお湯に茶色い色だけつけたような味のほとんどないスープ。

「おすすめじゃないってあんなに言っていたということは、美味しくないのがこの店のこのうどんの正しい形だから、きっとこれが完成形なんだ」、それとも「秘伝レシピを知っているコックは交渉がうまくいかず来てくれなかったから、見よう見まねで奮闘して作ってくれたのかも」「経営者が変わってコックもみんな変わったけど、地球の歩き方を見てモンゴルうどんを求めた日本人観光客がたくさん来るから、彼らも何か知らないけどメニューに残してあったのかも?」。謎が広がる。憶測が止まらない。

名探偵になった気分で、推理を働かせながらお金を払って店を出ると、細い狭い階段の踊り場で、日本人女性2人とすれ違った。そして1人の手には地球の歩き方。

彼女たちも同じようにモンゴルうどんを注文するかな。そんなことを考えながら、昼下がりの灼熱のアグラの街を歩み出した。

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