エジプトで、いただきます

「エジプト」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか?ツタンカーメン、ピラミッド、スフィンクス、ナイルの賜物?

では、「エジプト料理」は?なぜだか、日本では、あまり馴染みがない。おいしいものが山ほどあるにもかかわらず。今日は、そんな、エジプト料理のお話。

道で、レストランで、食堂で、いろいろなところにある食べ物屋。どこに行っても、必ずあるのが、「アエーシ」と呼ばれるパン。ドラえもんのポケットくらいの大きさのそのパンは、丸く、焼き立てはぷっくり膨らんでいて、ピタパンのようなものだ。街を歩いているとそこらじゅうのパン屋でアエーシを大量に焼いている姿が見られる。そして、ビニール袋パンパンのパン(アエーシ)を、持って歩く人や、自転車で頭に大量のアエーシを乗せて颯爽とカイロの街を走る運び屋もよく見かける。一度の食事で2〜3枚、多い人で4枚位食べるし、おやつのスナックもアエーシに挟んで食べたりする。5人家族でも、2枚×朝昼晩×5人で、1日あたり30枚のアエーシを買っていてもおかしくない計算だ。

そんなアエーシ、使い方は様々で、たとえばお店屋さんでフライドポテトを買って「持ち帰り」と頼めば、まず間違えなくアエーシに包まれてサンドウィッチになって渡される。それに限らず、牛肉のトロトロ煮込みの店でも、店内で座って食べればスープとアエーシとサラダが付け合わせとして出てくるが、持ち帰りにすると自動的にサンドウィッチ。朝ご飯の定番の空豆煮込みも、その場で食べなければアエーシでサンドウィッチ。まるで便利な入れ物である。一緒にちょっぴり、ニンニクの入ったゴマダレ(タヒーナ)なんかをサンドウィッチに入れてくれたり、頼めばサラダも一緒にサンドしてくれる。

さて、そんなこんなでパンの王国かと思えば大間違い。エジプトといえば外せない名物B級グルメ、「コシャリ」からもよくわかるように、お米や豆もよく食べる。コシャリは、米とパスタとレンズ豆が混ざった料理で、小さいサイズなら70円くらいからあり、並盛りでも120円〜150円くらいで、お腹いっぱいになる。上に、サクサクのフライドオニオンと、ひよこ豆、トマトソース、お好みでお酢や唐辛子ソースをかけて、混ぜて食べる。カイロの街を歩いているとそこら中に専門店があり、店によって、米とパスタと豆の割合が違ったり、トマトソースが既にピリ辛だったり、フライドオニオンがやたら山盛りだったり、違いがあるのも楽しい。

お米は他にも、食堂でお肉料理を頼んだ時などに出てくる。ラムチョップや、串焼きの牛肉、鳥の丸焼き、ラムや牛のひき肉で作ったハンバーグのような「コフタ」も定番であちこちにある。グリルだけでなく、煮込み料理もおいしい。それぞれ、パンと米、両方が一緒に出てくることも多い。米を詰めた鳩の丸焼きや、ソーセージと見せかけてハーブ味の米が詰まった牛の腸の料理なんていうのもある。米はもちもちで甘い。「そんな訳ないよな」、と思いながら調べていると、なんと、この1900年代初頭にジャポニカ米の改良品種が出回って以降、今もエジプトで1番食べられているお米は、日本と同じジャポニカ米だそうだ。

他に私がお気に入りの料理は、空豆のコロッケ、「ターメイヤ」。潰した空豆を、刻んだ玉ねぎやハーブと、衣がついて外がサクサク、優しい味。これまた、アエーシでサンドウィッチになると、ディルが混ざったきゅうりとトマトと唐辛子のサラダと、ゴマダレをちょっぴり。いろいろな味が混ざっておいしい。コロッケ2つ入った、絶品サンドウィッチ1つで35円だったからまた驚き。毎日食べたい。

砂ぼこりの舞うカイロの街、疲れると探したくなるのは、ジューススタンド。とうきびジュースなら35円、それ以外のイチゴやオレンジ、マンゴー、キウイなど、搾りたてのフルーツジュースも高くても150円くらいで、乾いた喉を癒すのにぴったりだ。店先に椅子が置かれているスタンドも多く、通る人々を眺めたり、ジュースを飲みにくるおっちゃん達を観察するのも面白い。

お茶もコーヒーも飲む文化があるエジプトでは、もちろん、甘いものの文化も発達している。びっくりするほど甘いバクラバや、おいしいアイスクリームやさん、ライスプディングなど、街中にデザート専門店がある。ミルフィーユに牛乳と砂糖をかけてオーブンで焼いたデザート、オム・アリ(日本語で「アリの母さん」)は、有名なスルタンの妻であり、アリのお母さんであった女性が、コックに「この世で一番美味しいデザートを開発して欲しい」と依頼して生まれたという。ロンドンのリトル・ベイルートで見たように、おじさんやお兄さんがスイーツを求めて並んでいる姿を見るのは、ジューススタンドのフルーツジュースと同じくらい、癒される、私のオアシスである。